真夜中のエーテル 松本コウシ



 闇を刻する (跋文より)

 この世界にはまなざしの数だけ真実がある─。たとえ同じ出来事を目にしていたとしてもそれぞれのまなざしには違った風景が見えている。私が見ている真実は、あなたが見ている真実とは違うのだろうし、第三者のまなざしには、また別の真実が映っているのかもしれない。写真家もまたそんな真実を目撃する一つのまなざしである。自らが捉えた真実の一つを写し取り告白すること。写真家の仕事とはそういうものだと思っていた。この写真集に出会うまでは。
 ここに並べられているのは単なる植物の写真ではない。生命とはいかなるものなのか。また生命と宇宙とはどのように関係を結ぶのか。それを目撃した証拠である。ここに写し取っているのはそれぞれの“真実”などという相対的なものではない。個々の真実を超えた生命の普遍的な“真理”なのである。我々は絶えず宇宙の真理を風景として見ているにも関わらず、それが真理であることに気づいていない。その宇宙の真理を科学者は数式や理論で提示する。しかし写真家はレンズとフィルムを通して、その真理を暴くことがある。

 多様な姿へと変容する光を捉えるには、無数のまなざしが必要だ。しかし闇が練り上げた生命の形態を捉えるには、光にまどわされず一つの真理を凝視する闇のまなざしを持たねばならない。輝かしい生ではなく、静かな死を見つめる感性、固有性にとらわれずに普遍性を見つめる悟性、有ではなく無を見つめる霊性が求められる。忍耐強くその試練をくぐり抜け、そこに到達した者だけが闇を刻することを許されるのだ。


文 ハナムラチカヒロ 
ランドスケープデザイナー/博士(緑地環境科学)





真夜中のエーテル 松本コウシ
「闇晴れてこころの空にすむ月は西の山辺や近くなるらむ」 (西行)





真夜中のエーテル  (新・眠らない風景) 

 小さな森の中で静かに徴候の明滅を繰り返す植物たちへ僕は光を当てた。オブジェは矢庭に僕の記憶の比喩と調和して薄明の夢物語が展開する。植物の色は時間を養分とし、その生を形作るのか。永遠なる回帰、際限のない反復、そして自己完結をし得ない植物たち。僕は躰中に「時の流れ」とは異する「気の流れ」を感じた。

人を優しく支えてくれる植物たちに敬意と感謝を込めて本書を世に贈ります。

文 松本コウシ(あとがきより)









松本コウシ作品集「真夜中のエーテル」

ドイツ装 A4サイズ 図版数90点 総ページ数114P

2020年5月18日より販売中 4,500円+税

ISBN  978-4-600-00354-8





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